壁紙の重ね断ち:上達には道具を揃え、腕を磨くのみ
物件のリフォームに挑戦する人の大半が、壁紙の貼り替えを経験するだろう。やり方はネットや本でいくらでも勉強できるため、簡単にできるように感じるものだ。
しかし、その技術は奥が深くプロ並の仕上がりを目指しても、そう簡単にできるものではない。今回は壁紙貼りの中でも、私が苦手意識をもっている
重ね断ち
について考えてみたい。
1.突きつけと重ね断ち
壁紙を貼る壁の構造によって、その難易度は結構違ってくる。
貼るのが典型的な和室であれば、その構造は「真壁」だろう。壁の一枚一枚の間は柱が通っており、壁の下地であるボードは独立している形だ。壁紙を貼る上で最も難易度が低いのは、この真壁だろう。
独立している壁1枚につき、壁紙も一枚ずつ貼っていけば良いことが大半だからだ。
これに対して一般的な洋室であれば、構造は「大壁」だ。大壁構造は柱が室内からは見えず、石膏ボードで隠れている。隣り合うボードが繋がっており、壁紙も繋げて貼り付けることになる。
この繋げて貼り付ける、という工程が増えることで、洋室の場合難易度が高まるのだ。
大壁で壁紙を繋げて貼り付ける場合には、二つの方法がある。
「突きつけ」と「重ね断ち」だ。
(1)「突きつけ」
「突きつけ」とは、一枚目の壁紙を普通に貼り付け、その端と二枚目の端をピッタリ合わせるように調整して貼る方法だ。貼り付ける段階で壁紙の間に、隙間ができないようにミリ単位でくっつける。そこさえクリアすれば繋ぎ目にカッターを入れる必要はないし、素早くできるだろう。実際プロはこのやり方が多いらしい。
ただこの方法で施工するには、壁紙の耳がカットされている必要がある。壁紙の両端には一センチ程度、下紙が余分にありそこには壁紙の型番や、柄合わせの印などが印刷されている。その部分を耳と呼んでいる。
当然、壁紙の耳をそのまま貼り付けるわけにはいかない。何らかの方法でカットする必要がある。突きつけを行うためには、貼る前の段階でこの耳がカットされた「スリット壁紙」を使わなければならない。
スリット壁紙とは、壁紙の糊付け機で耳をカットしたもので、通販サイトでも販売しているところがある。DIYならそのようなサイトで購入する必要があるだろう。
壁紙の耳を自分でカットすることはできないのか、という点だが、まず正確にカットすることは不可能らしい。2メートル以上の範囲を、直線にカットできれば突きつけられるが、どんなに長い定規があったとしても多少の誤差は出てくるだろう。
数ミリの誤差があっただけでもジョイントには隙間が生まれる、現実的ではない。もしも糊付け機を持っているなら施工を考えてもいいと思う。
(2)「重ね断ち」
垂直に貼った壁紙の端と端を数センチ重ねる。その重なりをまとめてカットする。
そうすることで二枚の切れ目がピッタリ合い、キレイに繋がる。
DIYで施工する人の大半がこの方法だろう。この方法は「突きつけ」に比べると、下準備などを含めて手間がかかり、必要な道具も増えることになる。
だが確実な方法だ。
2.重ね断ちに必要な道具
真壁に貼る時でも共通の道具は除いた上で、必須のもの、あると便利なものを紹介したい。
・ビニールテープ
壁紙が重なり合う部分で、上の壁紙に貼り付けるもの。これを貼ることで、上の壁紙の糊が下の壁紙に付くこと、端の糊が乾くことを防ぐ。
・下敷きテープ
壁紙が重なり合う部分で、下の壁紙に貼り付けるもの。カッターで下地のボードを切ることを防ぐ。
ビニールテープと下敷きテープは、一枚の壁紙の両端にそれぞれ貼り付ける。
・ジョイント定規
長めで透明な定規。垂直にカッターで切るために必要。透明なので壁紙のどの位置を切っているかが把握しやすい。
・下げ振り
壁紙の貼り付け位置を墨出しするためのもの。垂直な基準線がないと、壁紙がどんどん歪んでゆく。
・ジョイントカッター颯鷹
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あると便利なグッズ。下地を切らないようにカッターの刃の出具合を調整できるもの。重ね断ちになれていないなら有用。
3.施工上の注意点
・最重要なのが下げ振りで基準線を出すこと
何枚も続けて壁紙を重ね貼りする場合、垂直な基準線がなかったら必ず途中で歪みが生じる。重ねる幅を決めて、正確に基準線を下地に墨出ししていく。線は天井から床まで出す。
・基準線に合わせて壁紙を貼る
どんなに正確に基準線を出しても、それに合って壁紙を貼らないと意味がない。間違って貼り付けても、糊が乾くまでは貼り直しが可能。一枚ごとに基準線通りに貼れているか、上下で隙間はないか、などを確認する。
・重ねる幅は余裕をもつ
プロの動画などでは、ビニールテープの幅ギリギリしか重ねないことがあるが、慣れない内はもっと余裕をもって重ねたい。5~6センチくらいあれば安心だろう。
重ねて切ったつもりでも真っ直ぐ貼れていなかったり、斜めに切ったりしていると、一枚しか切れていない部分ができることがある。そのようなリスクを減らすため、重なりあう部分はできるだけ余裕をもたせるのだ。慣れてくればその幅を狭めればよい。
・必ず長めのジョイント定規を使う
プロの動画内では「地ベラ」だけを使って垂直に切っていることが多いが、素人が真似をしても真っ直ぐには切れない。大抵歪む。私も最初の部屋では地ベラのみを使い酷い仕上がりになった。
この歪みを最小限に抑えるには、長めの定規が必要になる。あまり長すぎても狭い部分で使えないので、40センチ程度が使いやすいだろうか。
・カットの前にはカッターの刃を折る
重ね断ちにはカッターの切れ味が必須だ。通常は一枚のところを二枚切るため、切れ味が鈍っていると一枚目だけしか切れないことも起こる。
・切り始めから終わりまで、力を緩めない
天井から床まで切り続けると、力を一定にし続けることは難しい。最も避けるべきことは、一枚目は切れたが、二枚目が切れていないことだ。こうなるとリカバリーをしても隙間ができる可能性が高くなり、コーキング材で誤魔化すしかなくなる。
その最悪を防ぐためにも、慣れない内は力を入れすぎるくらいでいいと思う。二枚目が切れないくらいなら、下地まで切った方がマシだ。慣れてきたら少しずつ力を調整できるようになってくる。
・適宜下の壁紙の切れ目がどこにあるか確認する
歪んで二枚目を貼り付けてしまった場合でも、二枚が重なる位置でカットできれば十分リカバリーはできる。しかし下の壁紙を外れて切ってしまうと、それも難しくなる。こまめに下の切れ目の位置を確認しながら、下まで切る。
・床付近はカッターを持ち替えて、下から上へ切る
基本的に壁紙のカットは、上から下へ、である。しかし床付近までカットしてくるとカッターの角度を変えないと切れなくなる。そのような場合は定規の位置をそのままにして、カッターを持ち替えて下から切り上げるようにすればやりやすい。
ただ定規の位置が変わったりすると、切れ目が合わなくなり隙間が開きかねない。
・壁紙を剥がすときは慎重に
カットが終われば切れ端を剥がしていく。ちゃんと切れ目が入っていればよいが、特に二枚目は一部分だけちゃんと切れていないことが起こる。剥がす時に力を入れるとその部分から壁紙が破れかねない。ゆっくりと慎重に行い、切れていない場所は慎重にカッターを入れて剥がす。
・ジョイントはローラーでしっかり圧着する
テープなども含めて剥がした後は、ジョイントをローラーで接着し、力を込めて貼り付ける。この際明らかに糊が塗れておらず、くっつかない場合にはジョイントに糊を塗る。
4.おわりに
以上、思いつくままに注意点などを書いたが、これらは頭で覚えたからといって実践できるものではない。ほとんどは体で覚えなければならない。
ある程度自信を持って施工できるようになるためには、一軒分の壁紙を貼るくらいの経験は必要だろう。
しかし道具を揃えることだけはできる。便利な道具を揃えることだけでも、技術の向上に役立つはずだ。スキルのない人ほど、道具は良いものを揃えたい。